2007年01月01日

黒き鎌1

家の扉をあけるときになって、ようやくメリーと手を離す。手を離すときに、少し照れた
ような顔をして、へへっと笑顔を俺に向けた。それは俺自身に向けられたはじめての笑顔
だった。

家に入ると、メリーは洋服のかけてあるクローゼットの前に飛んでいった。壁にかけてある
鎌を見る。俺が置いたときとなんら変わりなく、そこにある鎌。
俺は横目でメリーの様子を伺いながら、鎌を手にとってみる。
ぐうぉぉぉぉぉぉんんん
何かが流れ込んでくる。俺の中に何かが•••どろっと粘り気を持った何か不快な感情の流
れのようなもの。それは決してメリーのものではない怒りの塊のようなもの。
俺は思わず鎌を投げ捨てた。大きな音が床に響く。メリーが振り向いた。俺ではなく鎌をじ
っと見つめているメリー。今までの無邪気な表情ではない、高貴な冷たい目線。ゾクッとく
るような、それでいて澄み切った透明感を保った無表情さ。その冷たい目線のまま、視線が
ゆっくりと俺の方に向かう。
「何をしているの?」
小さな唇はあまり動かずに、感情を込めずにそう言い放った。
「いや•••ただ•••」
俺はメリーに見据えられて、固まっていた。そうだ幸せなときは終わったのかも知れない。
最後の時•••。それならば俺はメリーに告げなくてはいけない。人をかることを好んでは
いないメリーには非常につらい言葉•••。
メリーは最初、俺に会ったときに言った
「•••怖がらせれば、それで•••よかったの•••」と。
そして続けて、
「でも•••とめることはできなかった」と。
そして、俺はそんなメリーを見ていて確信したんだ。この子は人を殺すことを楽しんでいる
わけではない、むしろそのことすらも彼女にとっては大きな苦痛なのだと•••。
その彼女に、俺は告げなければならない。
次は•••有無を言わさずに殺せ!
振り返るのを待つことなくころせ!と•••。

固まってなどいられなかった。俺はメリーから放たれる圧倒的な威圧感を払いのけるように
して、メリーに近づいていった。自分の方から行動を起こさないとメリーから放たれている
ものに押しつぶされそうな気がしていた。
「あなたも•••」
メリーはゆっくりと近づいてくる俺を見据えたまま、無表情に口を開いた。
「あなたも、前の人と同じ•••」
俺は動きを止めた。前の人?まとめサイトの管理人のことか?
「前の人も、最初は優しかった。そして、その鎌を手にした時から、変わっていった。」
•••鎌を持ったときから変わった?
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黒き鎌2

俺は、頭の中にあるまとめサイトの構成を思い返してみた。
まとめサイトは、大きく二部構成になっていた。
最初はメリーの召喚について。そして後半は召喚したメリーとの日々だ。管理人はいろいろ
な掲示板や伝承からメリーの召喚についての情報を集め、そのメリーの召喚に伴う危険性に
ついて研究を重ねていた。特にメリーを召喚して、なお殺されずにすむ方法についてが研究
のメインだった。ある日、管理人は「メリーに関して非常に有力な情報の提供者との接触に
成功!僕は氏にましぇーん」と言う書き込みを行う。これが第1部の終わりの言葉だった。
それからしばらく時間が経ち、再び更新が始まったときには、管理人はすでにメリーを召喚
していた。ブログ形式で始まった第二部。そこには実際に召喚したメリーの容貌やメリーか
ら聞いた話、そしてメリーの召喚時の自分の活躍などが言葉の端々に見え隠れしながらも、
全体としては管理人がメリーに対して行ってきた言葉にできないような所業の詳細と、それ
を行う管理人の醜い姿が赤裸々につづられていた。
管理人はメリーを手に入れて、ココロをつぶされてしまったのだろうと、俺は思っていた。
美しいものを汚してしまいたい。壊してしまいたくなる欲求。おそらくは俺の中にも芽生え
たあの黒いもの。それが自分の中にあるということを俺は知っていた。いやメリーと出会っ
て自分の中からふつふつと湧き上がってくるのを感じたときに、管理人の感情を本当の意味
で理解した。この黒いものに身を任せてしまうほうが楽なのは充分にわかっていた。それほ
どまでに強力な誘惑を秘めたものをメリーを見た瞬間に感じたのだ。
しかし、身を任せてしまったら、俺がメリーを呼び出したもうひとつの目的を達成はできなくなる。
俺は、必死に黒いものを身体の奥底へと押し込んだ。

そして今、鎌の中から俺の中に流れ込んできたもの、それもまた、俺の中から沸きあがろう
とする黒いものと同じだった。
「人間があの鎌を持つとおかしくなるの。鎌に支配される。鎌の中から流れてくるたくさん
の黒いもの。鎌の中に封じ込められている人間の黒い欲望」
メリーは悲しげに言葉を続けた。
「鎌の中から流れてきたものに抗うことなんかできない。前のやさしかった人も興味本位で
鎌に触れて•••」
「それから変わったというのか?」
メリーはうなづいた。
メリー召喚の方法を知る情報提供者に出会ってから、ブログ形式でのメリーとの日々が掲載
されるまで2日。その間は、まとめサイトの管理人は優しかったというのか?
鎌に触れただけで•••管理人も、今俺が体験したように黒くてどろりとした欲望の塊が自
分の中に入っていくのを感じたと言うわけなのだろうか?
そして、その黒いものに支配された姿が、あのブログなのだろうか?あのココロをつぶされ
てしまった姿だと言うのだろうか?
ならば•••俺は、俺はどうなる?
そうこうしている間にも、俺の中に黒いものが腹の底からふつふつと力を盛り返してこよう
としている気配があった。
この黒いものに抵抗するには、抗うにはどうしたらいいのか•••。
俺はメリーに伝えなければいけない言葉をいったん飲み込み、メリーに告げた。
「メリー•••笑ってくれ•••」
俺にとって、殺されることよりも何よりも、この美しいメリーを自分の手で汚すことの方が
つらかった。まずこの黒いものをどうにかすること。そうしないと、俺はメリーが鎌を手に
する前に、あの管理人のようなおぞましい行動に出てしまいそうだった。
俺は、一瞬だとしても、本当に幸せな時間をメリーと共有できた。メリーの笑顔を見れたと
き、本当に彼女に出会えてよかったと思えたのだ。
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黒き鎌3

メリーは、苦しそうに胸を押さえ始めた俺の姿に、そしてそんな状況なのに、笑ってくれと
言う予想外の言葉に少し戸惑いを見せた。その戸惑いの中に今日俺に見せてくれた、冷たい
ものではない表情が見え隠れする。俺は、少し心に暖かいものを感じた。と同時に冷酷さを
秘めた表情に守られていたメリーの内面を目指して、俺の中の黒いものが立ち上がろうとし
てくる。こいつは、この黒いものはメリーの中にある弱さやか細さ、繊細な部分を見ると、
よけいにいきおいづいてくるようだった。まるで彼女の本来の少女の部分に誘われるように。
俺は胸の中にある暖かいもの、それはメリーを大切にしたいと思っている気持ち。メリーの
笑顔に触れられた喜び。それを信じて、黒いものを再び押し込めようとしていた。
「わ、笑う•••?」
メリーは、どう思っているのだろう?今の俺の中で起こっているこの葛藤はメリーにはわか
らないだろう。前の管理人がどのように変化していったのかわからない。しかし今の俺の姿
の中に、メリーは管理人の変化と同じものを見ている。
「そうだよ。メリー•••笑ってくれ•••」
俺はできるだけやさしく、そして笑顔をメリーに向けていった。•••まだ、大丈夫だ。
俺は半ば崩れおちながら、方ひざを床についた状態でメリーを見上げていた。
「君の言うように、俺はとんでもないものに触れたみたいだ•••。」
できるだけやさしく、メリーに今の俺の状態をわかってもらえれば•••。
何よりも、俺は、メリーを汚したくはない。その思いを・・・。
「今、俺の中で、鎌の中にあった黒い欲望が立ち上がってこようとしている」
必死になって押さえつけているが、俺の言葉に反応して不安げな表情を見せるメリーを見て、
黒いものはよりいっそう反応を示してくる。
「今日の君の笑った顔•••俺はそれが見たかった。だから、俺は君が笑顔を見せてくれた
ら•••黒い欲望なんかに支配されない」
そうだ、何ものにも変えがたいメリーの笑顔がもう一度見れるのなら、俺は、こんな黒いも
のなど押さえ込んでみせる。
「約束する。前の人のようにはならない•••。」
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黒き鎌4

メリーは、もうすっかり冷酷な仮面を脱ぎ捨てていた。うれしそうに笑ったり、恥ずかしそ
うに照れて見せたり、はにかんだりしたあのメリーだ。
俺は、メリーの表情の変化に反応を示す黒いものを押さえつけながら、言葉を続けた。
「•••大切にするって•••いっただろ。だから、笑って。」
もう、限界に近かった。黒いものはすぐそこまで来ていた。
「メリー、俺に力をくれ•••」
その言葉を絞りだすのが精一杯だった。俺の中の黒いものはまるで獲物に飛び掛るライオン
のような勢いで腹の底から、俺の胸の中の暖かい部分に向かって飛び掛ってきていた。
そのとき、俺の視界がさえぎられた。
何が起こったのかわからなかった。ほのかに甘い香り、そしてふわっとした感触に包まれて
いた。俺はその甘い香りを胸いっぱいに吸い込んだ。黒いものの勢いが衰えているような感
じがした。俺は顔を上げた。
メリーが俺を抱きしめていた。目にいっぱいの涙をためて•••。
「•••大切に•••」
メリーの口からわずかに声が聞こえた。
「•••大切に、してください•••」
メリーは、ゆっくりと目を開けた。
俺と目が合った。
•••いとおしい•••。
俺の中には、その言葉でいっぱいだ。黒いものは消えていた。
この小さな少女を大切にできなくなるくらいなら、俺は本当に消えてしまったほうがましだ。
俺は静かにメリーに微笑んだ。
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黒き鎌5


「•••ありがとう•••」
「え?」
「消えたよ、黒い奴•••」
泣き顔だったメリーの表情が、驚きに変わる。
「本当?なんで?人間なのに•••」
俺は、メリーを抱えたまま、立ち上がった。
「きっとメリーが守ってくれたんだよ」
「え?」
そうだ、メリーは笑顔を見せてくれたわけではない。あの時、俺は自分の中にある暖かいも
のが唯一あの黒いものに対抗できるものであるとそう信じていた。
俺がメリーに会いたかった理由、それはメリーの笑顔が見たかったからだ。
その気持ちさえあれば、黒いものを押さえ込めると思った。
メリーはそんなことを知らず、人間は黒いものに勝てない、と思いながらも俺を抱きしめた。
「•••大切に、してください•••」
この言葉を俺に告げるために、俺を包み込んだ。それは無意識の行動だったのだろうけど。
それでも、俺には充分すぎる力になった。
「大切に•••するからね」
俺はメリーの顔を目の前に持ってきて、いった。
「え•••う、うん」
照れて目を伏せるメリー。俺はその表情の変化を楽しんでいた。

俺は、床に横たわった鎌を大量の毛布でくるみ、ベットの下に押し込んだ。
直接手で触れないこと•••。これがメリーの教えてくれた鎌に対する対処方法だった。そ
れでも毛布でくるむときは緊張で手が震えた。メリーは俺の背中にへばりつきながら心配そ
うに俺の様子を見ていた。
••••もう、私も•••これを手にしたくない•••。
あの後、メリーが口にした言葉。鎌を持っているときと鎌を手放した後、メリーの雰囲気が
少し違うのは、メリー自身にもあの鎌の中から流れ込んでくる「黒いもの」の影響があった
のだろう。圧倒的な不快感、自己嫌悪、そのまま「黒いもの」に身をゆだねてしまったほう
がよほど楽だとそう思えるほどの••••。俺自身が実際に体験したからわかる。
破壊衝動•••。「黒いもの」には、行き過ぎて破壊してしまうまでとことんいってしまわ
なければすまなくなる破壊衝動が伴っていた。
メリーは美しい、そして繊細だ。人の中にそんなものがあることを認めたくはないが、もと
もと人間の中に存在する加虐的な性癖を呼び覚ますに十分なほどに•••。メリーを最初に
見て、鎌を手に取っていない俺が最初に覚えた黒い感情。俺の中にもメリーをむちゃくちゃ
にしたくなる愛するがゆえにむちゃくちゃに壊したくなる騒動。美しいがゆえに汚したくな
る衝動。突き上げてくるその衝動を何とか押さえ込んだ。
鎌は、その俺の奥底にある醜い衝動に力を与え、俺を突き動かそうとした。ただそれだけだ。
元は俺の中にあったもの。鎌の中から流れ込んできたものは、実は邪悪なものでもなんでも
なく、人間の根本に眠る欲望という形の力だったのかも知れない。しかし、あまりに強大で
生々しい力に俺は嫌悪感を抱いた。
「メリーの中には、2つの魂がある」
まとめサイトに書かれていた言葉。人形メリーの無念、そして幼くして不幸にも命を落とし
た不遇の少女の念。俺の目の前で無邪気に微笑んでいるのは、おそらくは不遇な運命を抱い
て死んだ少女の魂だろう。俺はその少女の運命と少女の魂に惹かれた。
「あ、あの•••着てみていい?」
またクローゼットの前に戻ったメリーは、無邪気に微笑みながら、服を自分の胸に当てて次
々と床に散乱させていた。どうやら気に入った服が見つかったらしく、鏡の前から俺に声を
かけてくる。


「もちろんだよ。着てくれると、俺もうれしい」
心底、そう思った。その言葉に安心したのか、俺に笑顔を返してくる。目を輝かせ、手に取
ったシンプルな白いワンピースを振り回しているメリーのうれしそうな姿を見て、俺は微笑
んでいた。こうして無邪気にはしゃいでいるメリーと先ほどの高貴な氷のような冷たさを纏
ったメリー。どちらが本当のメリーなんだろう。鏡を前にポーズをとるメリーの姿。女の子
はみんなモデルなんだろうな。自分で表情を作りながら、さらにどの服を着るのかを選びは
じめている。手に取る服によって表情が変わる。先ほどの白いワンピースを手に取っている
ときは、その年頃にふさわしい無邪気でかわいいメリーが鏡に映っていた。少し大げさなイ
ブニングドレスを手に取るとき、メリーの表情は少し妖絶ななまめかしさが漂う。今着てい
るものと同じようなゴスロリな服を選ぶとコケティッシュないたずら好きな小悪魔の表情が
顔を出す。そして、さらに高貴な印象を与える服•••。このとき顔が一気に無表情に変わ
る。俺は先ほどのメリーを思い出しドキッとして息を飲んだが、高貴な印象だけが全体を包
んでも冷たさは感じられなかった。
散々悩んだ挙句、ようやくメリーが手にしたのは最初に手にしていた白いワンピースだった。
メリーは大きく息を吸い、目を閉じた。鏡の前で何かに思いをはせているようだった。
ゆっくりと目を開けて、メリーは、白いワンピースを床に置いた。
そして••••。
メリーは、今自分の身を包んでいる黒いごてごてとしたレースがあしらわれたロリータファ
ッションの服をゆっくりと脱ぎ始めた。

胸のリボンに手をかけ、ゆっくりとそれを解いていく。黒いリボンを襟から抜き取り、さま
ざまな女の子の服が散乱している床へ手から滑り落ちていく。襟元のボタンをはずす姿が鏡
に映っている。
•••俺は固まっていた•••。
今目の前に何が起こっているのか•••。頭はわかっていて、「まずい!見ちゃいけない」
なんて思っていたりする。が身体が言うことを利いてくれない。
メリーの手は、次々とボタンをはずしていく。ウエストの辺りまで続くたくさんのボタンを
ひとつずつはずしていた。その隙間から、ほんのわずかな隙間から見え隠れしている肌。
俺はごくりとつばを飲み込んでしまった。見たくないと行ったらうそになる。しかし、見て
はいけないという思いのほうが強かった。俺は何よりもメリーを汚したくない•••。
俺のよこしまな欲望のはけ口に南下したくない。俺は何とか自分の目線をメリーの胸元から
そらした。
鏡に映るメリーの顔、そこに救いを求めようとした。
が、鏡の中のメリーは、じっと俺を見ていた。
下唇をかんで、少し涙をためたような潤んだ瞳で、確実に俺を責めていた。
良く見ると、胸元も両手でしっかりと重ねられ、少し震えているようだった。
「あ、あのさ•••いや、あの•••」
俺は急いで言い訳をしようと、何か言おうとしたが、何も出てこない。
慌てふためく俺のほうを振り向いて、つかつかと近づいてくるメリー。
ほっぺを膨らまして怒った顔で俺に言った台詞が•••。
「えっち!」
ボタンのあいた服を両手で押さえた女の子が、目の前までやってきて、ほっぺたを膨らませ
て、上目遣いで、「えっち!」•••。
俺は、思わず目をつぶった。落ち着け落ち着け落ち着け•••。
「黒いもの」でも「暖かいもの」でもない、「何か」が鎌首を持ち上げてくるのを必死にな
って抑えた。
posted by 126 at 15:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 第三の情景「黒き鎌」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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