2007年01月05日

キーワード1

メリーは、麻子の腕にしがみつき、ほほを寄せて、目を閉じた。麻子は、突然、自分の腕に加わった重さを確かめるためにメリーの方を見る。メリーの目からは涙がほほにすじを作って落ちていた。麻子はその様子を見て、さらに俺ににらみを効かした。

この状況・・・そして麻子の性格を重ね合わせると、麻子の脳みその中で渦巻いている疑惑がどのようなものか想像をするのは簡単だ。

幼い少女をさらってきて、自室に監禁、少女はようやく来た他人に助けを求めているキキキ

こんな図式が麻子の頭の中をぐるぐると回っているのだろう。

もはや、どう思われてもいい。

メリーに対しての禁句、いや禁句ではない。メリーを支配するためのキーワード。

俺は、メリーを自分の思い通りになど決してしたくはない。前の人、つまりまとめサイトの管理人のように、欲望を吐き出すための道具になんかしたくない。そう願っている俺にとっては、もっとも忌まわしき意味を持つ言葉。メリーを支配するための言葉。それを知らぬこととはいえ、俺は使ってしまっていたのだ。最初にメリーとであったとき、そして先ほど。

俺は、メリーと心が通じたのだと、もしかしたら、俺の一生懸命な姿を見て、メリーのほうが俺の事を理解してくれたのだと、そう思っていた。しかしそれは違っていた。

その言葉は、メリーにとってのスイッチに過ぎなかったのだ。

「大切にするよ」と言う言葉・・・

俺は、目を閉じて麻子にすがりついているメリーから目をそらした。

見ていられなかった。

あんなにも、いつまでも見続けていたいと思っていたメリーの姿を今は見るのがつらかった。

俺はメリーからも麻子からも目線をそらして目を閉じた。

何もかもを失ったような気持ちがしていた。

-----ぐぅぅぅおおおぉぉぉぉぉんんんん

目を閉じると、自分の身体の中が見えるような気がした。生暖かい肉体の中で奥底に鈍く赤い光を放ちながら渦巻いている黒い影が不気味な音を立てていた。
posted by 126 at 01:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 第五の情景「キーワード」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

キーワード2

黒い影は刻々と姿を変化させながら、まるでひとつのイキモノのようにうごめいていた。

俺は自分の心がどこか深いところにどんどんと吸い込まれていくような感覚の中でその黒い

影の姿を凝視した。

 

-----ぐぅぅぅおおおぉぉぉぉぉんんんん

 

これは、「黒いもの」だ。俺はそう感じていた。不気味な音は周期性を持って聞こえていた。

 

-----尾--間--絵の---かんじて--いる--とおりだ---

 

黒いものの発する不気味な音は、ところどころ途切れ、低い男の声が混ざり始める。聞き取りにくいその声に集中すると、不気味な音は消え、はっきりとした男の声が聞き取れるようになった。男の声は、こういっていた。

 

------お前の感じているとおりだ------

 

なにが俺の感じているとおりだと言うのだろうか?黒いものは表面の一部分を隆起させ、そこに人間の口を作り出し、男の声を発していた。

 

-----なにが?お前が一番良くわかっているだろう。メリーのことだ----

 

俺はしゃべっていない。なのに、俺が今考えたことに対して男の声は反応をしているようだった。俺は身を硬くした。しかし、メリーの事と言われて心は確実に動揺していた。

 

-----ようやく苦労して手に入れたメリーをお前はたった一つの言葉で失うのだ----

 

確実に俺の心の中を見透かしている。認めたくはないが、俺の中にあるものは、まさに男の声の放った言葉のとおりだった。

 

-----そうだろう。今、オレはお前だ。お前の中にある願望と欲望、お前が黒いものと言って忌み嫌う本能だ。お前がいくら隠そうとしても、偽善で覆い隠そうとしても、その中にあるどす黒いものをオレは知っているぞ。結局お前は、メリーの美しさとその美しさにふさわしい高貴な穢れなき純粋さ、また逆にもろくはかない小動物の見せる愛らしさ、か細さに欲情しているのだ。恋などではない。欲情だ---

 

キキキそうなのか?オレは純粋な気持ちでキキキメリーをキキキ違うと言うのか?

 

-----力を貸してやろう。簡単な事だ。メリーを手に入れろ-----

 

黒くぬめった表面から突起して出来上がった口は、にやりと笑みを浮かべた。

posted by 126 at 01:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 第五の情景「キーワード」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

キーワード3

黒いもののぬめった唇は、俺の心に恐ろしい言葉を直接たたきつけてくる。

 

ーーーー簡単なことだ。私に身を任せればいい。お前が忌み嫌う前の人とは違う方法で、メリーを支配すればいいのだ。

 

俺は頭を振り払い、声を追い出そうとした。しかし、この声は耳に聞こえるものではない。

直接心に伝わり強烈なイメージとともに俺の中をかき乱そうとしていた。

 

ーーーー何も陵辱し汚すだけが、手にいれることではあるまい、お前にはお前の方法があろう。

 

映像を伴ったイメージが頭の中を、いや心を刺激している。考えてはいけない、見てはいけないと押し込めてきた俺の妄想が次々と現れては消える。

これはこの黒いものが見せているのか?それとも、こいつの言葉に刺激されて自分が望んで見ていることなのか?

前の人に、自分を重ねる映像キキキ

 

ーーーーお前が望む方法で手に入れればよいのだ。お前は、前の馬鹿の男が知らなかった呪文の言葉も知った。

 

妄想は、俺の甘い願望へと姿を変えて現れ始めた。

・・・そうだメリーの笑顔が見ていたい。メリーの姿が見ていたい。そしてできることであればメリーを救いたい。んな甘い幻想。まるで恋人のように過ごせたら、どんなに楽しいだろうか買い物に行ったり、映画を見に行ったり、んな日常。甘くやさしい日常。アマのように現れては消える。

 

ーーーー穢してしまえ。メリーを。お前の思う方法で。穢してしまえ。

 

次第に妄想は、俺とメリーが本当の恋人のようにベッドに入る場面を見せてきた。

震えるメリーをやさしく抱きしめる。これから何が起こるのかわかっている、けれどもあまりに無垢な外見は何も知らずにおびえている少女のようだ。

俺はメリーの微笑みかける。「大丈夫だから」

上目遣いに俺を見上げていたメリーはゆっくりと目を閉じるそして、こくっとうなづいた。

 

ーーーーお前なら、傷つけず、メリーをおぼれさすこともできるだろう。メリーが穢されながらも悦びを感じればキキキ

 

俺はゆっくりとメリーの肩に手を伸ばす。

 

ーーーーお前は欲望を満たすことができ、罪悪感を覚えることもないだろう

 

俺は、満足していた。満たされた空間、隣にメリーがいる。いつまでも年を取らず、出会った頃のままの美しさで、しかし高貴な雰囲気によって保たれていた冷たさは微塵も感じられなかった。

メリーは安心しきっていた。ぬるま湯の中で、何の警戒心もないままに、俺に頼りきっていた。

 

----メリーの中にあるのは、「大切にされることなく捨てられた魂」

 

俺は、少し年を取った。メリーは自分の娘と言ってもよい外見のままだ。俺は、自分の恋人で、自分の妻で、そして自分の娘のような感覚で、メリーにすべてをささげていた。俺の何もかもがメリー中心だった。メリーの信頼にこたえようと、メリーが頼ってきてくれる分だけ大事にして行こうと思っていた。そしてそのとおり生きてきた。

posted by 126 at 01:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 第五の情景「キーワード」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

キーワード4

黒いモノがぬめった唇、そうだ表面に無理やり作り上げた唇だけでさらに俺に言葉を投げかけた。俺の視界は、その言葉に誘導されてメリーの姿を見ているのか、メリーとの生活を解説するように黒いものが語っているのかどちらかわからなくなっていた。

 

ーーーーその魂が、もっとも求めるもの、それは自分を大切にしてくれる存在

 

メリーは、俺を信頼しきっていた。俺が年を重ねて行くことへの不安もなく、いつまでもこのままの生活が続くことを信じていた。

朝起きれば、隣に俺が寝ている。仕事に行ったり、用事があったりするような少しの時間離れることへの不安もなく。俺が帰ってくることを信じて、俺はメリーの中の憎しみやのろいのようなものが消え去っていったことを確信していた。俺は幸せだった。

 

メリーの黒い部分が癒されていったこと、それは俺がしてあげたかったことであり、メリーが求め続けたものだとそう確信していた。

 

俺たちはお互いに捨てられて拾われた者同士だったからキキキ

 

ーーーーだからこそ、捨て置くモノを憎み、捨て置かれたものの魂を取り込み、捨て置いたものに復讐をするために現れる

 

俺は、両親に捨てられた。覚えているのは、ひどい虐待の中で震えながら生活をしていたこと。父親は毎日何かにいらついていた。母親への暴力それを毎日見てすごすことがつらかった。母を守りたかった。母のことは好きだった。母は水商売仲間を昼間につれてくることがある。そのときの母は嫌いだった。しかし、母を喜ばせたかった。父親にひどく痛めつけられる母を救いたいと、父親を殺してしまいたいと思うこともしばしばあった。だからこそ、

母親を喜ばせたかった。

笑ってほしかった。

母が喜ぶのであれば、なんでもした。

母の仕事先の女どもが、俺のことをおもちゃにしても、人形代わりにもてあそんでも、もしも母が喜んでくれるのであればそれでよかった。
posted by 126 at 01:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 第五の情景「キーワード」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

キーワード5

俺の中で昔の情景が再生されている中でも黒い唇は何かをささやき続けていた。

 

ーーーーしかし、もっともメリーの中に刻み込まれる憎しみは、「自らが捨てられる」事実

 

ある朝目が覚めると、誰もいなかった。大好きだった母親も家の中の何もかもすべてなかった。僕はただ一人で母親が帰ってくるのを待った。真っ暗な部屋の中で、ひざを抱えて、じっと待った。待ち続けた。母親がこの家ごと、自分のことも捨てて、旦那とともに去っていったことなど知らずに。

 

そのことを知ったのは、借金の取立人が部屋に踏み込んできたときだった。

 

メリーは、俺だ。

一方は、黒き鎌を手にしたが、俺は、拾われた。

 

ーーーー自らが裏切られ、ぼろぼろに穢されるときに、メリーは黒き鎌をも必要としない

 

ある日ーーーーもうすっかりと年をとった俺がそこにいた。メリーにいつものように微笑みかけて、家を出る。

そうだいつもの風景、もうすっかり俺たちの間では日常となったいつものこと。

しかし、俺は再び家に帰りつくことはなかった。

俺は家を出てすぐに交通事故で救急車に運ばれて死のふちをさまよっていた。

うわごとのように帰らなければいけないキキキとつぶやきながら。

posted by 126 at 01:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 第五の情景「キーワード」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

キーワード6

ーーーーまだ、この「メリー」には、憎しみが少ない。お前の手でより多くの憎しみを植えつけてやれ

 

メリーの姿が見える。死のふちをさまよっている俺は、メリーの姿を少し高いところに浮かんで見ている。メリーはひざを抱えて、真っ暗な部屋の中でうずくまるように座っていた。

まるで人間のように涙を流しながら、俺の帰りを待ち続ける少女。

 

メリーは俺だ。あのころの俺だ。母親を信じて、そして裏切られた俺の姿と同じだ。

俺は必死に声をかけた。しかしメリーの耳には届かない。

メリーはいったい何日、こうしてひざを抱えていたのだろう?部屋にはうっすらと埃がたまり始めている気がした。

 

しばらくして、メリーは、立ち上がった。

 

その表情は、俺と過ごしていたやわらかく暖かいものではなかった。

出会ったときの氷の表情。メリーは、ベットの下に手を伸ばした。出会ったときに手に持っていた黒き鎌をキキキ

そこにいるのはもうすでに、俺の知っているメリーではなかった。

幸せな記憶の印象が強かったからこそ、メリーの中に渦巻く絶望感も計り知れない。

 

憎しみ以外の何者も持ち合わせていないような冷酷な表情。人を刈るのはいやなのだなどと甘いことを言うこともなく淡々と人間を狩ることの出来る魂のこもらない目。

メリーは人形へと戻っていた。

 

ーーーーそれはお前の考えている「メリーを救う」ためのもう一つの方法だということだ。

 

違うんだキキキキ。俺は裏切ったのではない。

 

ーーーーーお前もいつの日か死ぬ。それをメリーは裏切りとして受け止める。

 

裏切ったのではない。

 

ーーーーーこれがお前の描くメリーの魂を救う方法の結末であり、そして、同時にお前の心配しているメリーの存在を救うための唯一の方法だ。

 

キキキキキ

 

ーーーーーお前にメリーを召喚させることができた以上、これから他の他人が召喚できないとも限らない。

 

キキキキキ

 

ーーーーーだからこそお前はメリーに「次は有無をいわさず殺せ」と告げたかったんだろう。

 

キキキキキ

 

ーーーーー最も大切にされた記憶とそのものからの裏切り。これ以上のものはない。

 

キキキキキ

 

ーーーーーお前が声をかけたぐらいで、この「メリー」の行動は変えられない。今のままではメリーはお前が死んだ後にまた何者かに捕らえられ、時には前の馬鹿者と同じように陵辱を繰り返し、時にはお前のような者が現れるやも知れない。

 

キキキキキ

 

ーーーーーオレはどちらでもよいのだ。今なのかさらに先なのか、メリーの魂が憎しみで満たされさえすれば、それでいいのだ。
posted by 126 at 01:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 第五の情景「キーワード」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

キーワード7

・・・・お前・・・俺の中にある俺の欲望じゃない・・・

鎌だな・・・

俺は黒いものが語る言葉に違和感を感じていた。俺の願望でも俺の欲望でもない。巧妙に俺の記憶と願望を利用して、俺に妄想を送り込んでいたのは、俺がベットの下に隠した黒き鎌自身だ。

俺が、俺自身の自我が弱ったのを見て、俺に語りかけてきたのだろう。

俺は、もう一度メリーの笑顔を思い返した。大丈夫だ。メリーの中の憎しみを消し去ってしまうのが俺の本当の望みだと言い聞かせて。妄想が見せた未来の情景を振り払った。

・・・お前がなにを言おうと、俺はメリーの魂を救う。何が何でも死んでたまるか!メリーを裏切るような、死に方なんかしない!

メリーが自分を大切にしてくれる存在を求めて、そのものの言いなりになるというのなら、俺は大切にされることが当たり前にしてやる。そんなことだけを望まなくてもいいように。愛されて当たり前なんだと思えるように、呪文なんか聞かないくらい大切にしてやる!

俺は強く念じた。俺がメリーを大切にしてやる!

ふと・・・・目があいた。俺の中にあった黒いものが沈み込んで行くのがかすかに見えた後、俺の視界が開けた。

目の前には、麻子の腕にすがり付いているメリーがいた。

俺は大きく息を吐き出した。どのくらい俺はここにいたのだろう、まるですでに自分の人生を終えたような長い年月、目を閉じて黒いものと語っていたような気がしていた。が、先ほどメリーの姿を見るのがつらくて目を閉じてから1分と経っていないようだった。

「メリー」

俺は、麻子の目を気にせずに、メリーに声をかけた。

メリーは、うつろな目線を俺の方に移してきた。

メリーが一瞬不思議そうな顔で俺の顔を見る。

「メリー、俺も、大切にしてやるから!」

メリーの目が輝いた。

そして、メリーの顔にこれまでにないような笑顔がはじけた。

そうだ、この笑顔だ。俺が求めていたのは、この何者にも変えがたい笑顔なんだ。

俺は微笑み返した。

麻子はきっと何が起こっているのかわからずにきょとんとしていることだろう。

俺はまっすぐにメリーだけを見ていた。

麻子から離れて俺の方にかけてくるメリーのことを。
posted by 126 at 01:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 第五の情景「キーワード」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。