2007年01月05日

紫1

なにか、久しぶりに一人になった気がする。メリーの召喚に成功したのが昨日の夜中・・・。

ちょうど24時間前ぐらいか・・・。

俺は、ゆっくりとクローゼットの前に向かった。そこにはメリーの脱ぎ散らかした服が散乱している。

ひとつ、ひとつ床から拾い上げて、クローゼットに直していく。

こんな事が一つ一つうれしかった。明日の朝になったら、また、メリーに会える。

明日も仕事だが、まあ休んでしまって、メリーと一日ゆっくりと過ごそう。

どこかに連れて行ってあげてもいいな。

何か欲しいものがあるかもしれない。

そんなコトを考えニヤニヤしながら、ベッドに倒れこむ。

なんにせよ、疲れた・・・。

ゆっくりと目を閉じる。

疲れがどっと表に出てくるような感覚。

ああ、このまま眠りの世界に沈み込んで行きたい・・・。

RRRRRRRR

携帯がけたたましくなっていた。

このまま眠らせてくれ・・・。と携帯を無視しようと思いながらも、

まて・・・。メリーからかも知れないじゃないか・・・。と飛び起きた。

そうだ、きっと麻子の家に連れ去られたものの、さびしくて、俺のもとに帰ってこようとして電話をかけてきているんだ。

俺は急いで携帯を手にした。画面は非通知。メリーだ!

なんだかんだ言ってもさびしかったんだろう、うんうん。

俺は、通話ボタンを押す。

「もしもし、私、メリー・・・今あなたの家の外にいるの・・・」

やっぱりメリーか!そうか、玄関口か!と玄関に向かいながら・・・。

俺は立ち止まった。

そして、まだ切れていない電話に向かって言った。

「お前・・・誰だ・・・?」

posted by 126 at 09:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 第七の情景「紫」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

紫2

「・・・・・」

電話は何も言わずに切れた。

俺は電話を手に持ったまま、身体に緊張感が走っているのを感じていた。

メリー・・・。今の電話はメリーだけど、俺のメリーじゃない。

それはほんのわずかな声の調子・・・麻子に連れて行かれたときのメリーには、

氷のような冷たさはなかった。小悪魔のようないたづらっぽさはあったが、

最初に出会ったときのような、高貴で冷め切った冷たい声の持ち主ではなくなっていた。

それは、俺を信頼して、俺を信じてくれたからだと、俺は確信している。

それを確信できるだけ、あの黒いものの誘惑はすさまじいものだったからだ。

・・・ではアレは一体・・・

RRRRRRRRRRRRRRRRRRR

俺が身を硬くしている間に再び携帯電話が俺の手の中でなり始めた。

またしても、非通知だ。

・・・・誰だ・・・一体・・・・

俺はゆっくりと通話ボタンを押した。

「・・・・・・」

そっと耳に携帯を当てる。

電話の向こうはこちらの様子を伺うように静かなままだった。

「・・・お前、だれだ?」

俺がゆっくりと口を開き、何とか言葉を搾り出す。背筋をいやな汗が伝っている。

「・・・私、メリー・・・」

電話の向こう側の高貴で冷たい声がそう告げる。

俺は大きく息を吸い込んだ。

当然くるだろう次の台詞を受け止めるために。

「・・・今あなたの後ろに・・・いるの」

posted by 126 at 09:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 第七の情景「紫」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

紫3

俺の身体は、その台詞を待たずして動いた。振り返ると同時に振り下ろされるで

あろう大鎌の軌道を予測し、すぐ背後にいる何者かとの間合いを取るために。

俺は、目の前の玄関のほうに飛び込んでから振り返った。

そこには、俺のメリーとは違った何者かが立っていた。

黒いロングストレート。俺のメリーよりも身長が高い感じがする。全体的に薄い紫と濃い紫で構成されたメイド服。

白いレースはふんだんに使っている。非常に上品な感じのするロングスカート。

目は青い。青い目がその表情をよりいっそう冷たいものにしていた。氷の瞳だ。

目の前のメリーと名乗る少女は、振り下ろした大鎌をゆっくりと戻し、再び攻撃に向けて、構えようとしていた。

「お前、だれだ?」

俺は何とか言葉をひねり出した。

実際は、極度の緊張に息も上がっている状況だ。なにせ、昨日の夜は、何度もシュミレーションをして、

もし失敗してもかまわないという気合を持ってメリーを自分の手で召喚した。

今は違う。この紫色のメリーは、呼びもしていないのに現れたのだ。しかも、メリーが明日の朝にまたやってきて

くれるという俺にとっては幸せな状況で死ぬわけには行かない。いや、俺の幸せのためではない。

俺はメリーを裏切らないためにもこんなところで殺されるわけには行かないのだ。俺のメリーに二度と鎌を持た

せないためにも。

「あたしも、メリー。黒のメリーを解放させてもらうの」

黒のメリー?

「黒のメリーって・・・」

俺のメリーの事か?どういうことだ?メリーはひとりではないのか?

俺をさげすむような視線を浴びせながら

「あたしは、紫のメリー。あなたが死ねば、黒のメリーは開放されるの」

紫のメリー・・・。薄い笑いを顔の表面に貼り付けたまま、俺の事を虫けらのように思っている。

そんな表情で俺に言い放った。

「あなた・・・死んでくださる?」

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紫4

静かに、鎌を構えなおす紫のメリーと名乗る少女。

わずかに微笑んでいるように見える口元は、俺などを相手にしていないという余裕の現われなのか?

しかし、目は笑っていない。ほんの昨日初めて出会ったときのメリー・・・こいつが黒のメリーと呼ぶ・・・

俺のメリーとは、少し違っていた。

俺がメリーを召喚しえた人間と言うことを知っている。知っているからこそ、俺に対しての心構えがすでに

あると言うことだ、黒のメリーと呼ばれたメリーにはその余裕がなかった。驚きと戸惑い、その後で感じる

喜び、寂しさと捨てられてしまう、置き去りにされることへの不安、そして、何よりも大きな救いと安心・・・信頼。

めまぐるしく感情を動かしてきた俺の大切なメリー。

あいつには、余裕などなかった。

最後になって、俺をからかう余裕を見せたが、しかし、その余裕は安心と信頼に裏打ちされたもの。

けっして、相手よりも自分が優位だと思っての余裕ではなかった。

紫のメリ―・・・。目の前の少女は、澄んだ青い瞳で俺を見下したまま、再び静かに口を開く。

「あなたはよくやりましたわ。もう充分です。」

俺は紫のメリ―をにらみつけることしかできなかった。

目の前の少女は、静かに目を閉じながら、言葉を続けた。

「もう役目は終わりましてよ。だから、おとなしく・・・」

紫のメリーのカッと目を見開いた。

「死んでくださるかしら!」

という言葉と同時に俺の方へと鎌を振り落とす。それを予測していた俺は、すんでのところで鎌をかわし、

床に転がり込んだ。そして紫のメリーのほうを振り返ると、第2撃目の鎌が俺を追いかけてきていた!

もう、頭ではなかった、身体が勝手に反応をしていた。正確に俺の首に向かっている鎌の軌跡から

飛びのいて、ベッドの上に移動、目標を失った鎌は、一旦壁に吸い込まれるように突き刺さった。

「なかなか優秀な反射神経ですこと・・・。」

壁に刺さっている鎌を引き抜くために壁に足をつけて踏ん張っている姿は、先ほどまでの余裕を見せて

いた紫のメリーとは思えなかったが、あの鎌が引き抜かれてしまえば、あの俊敏な切り返しにもう一度か

らだが反応してくれるとは限らない。

posted by 126 at 09:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 第七の情景「紫」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

紫5

武器・・・。あいつに対抗できる武器・・・。

・・・鎌・・・・。

それは、今、俺の乗っているベッドの下にある。

いや、だめだ。ベッドの下に隠しておいた鎌・・・。アレを手にしたら、俺の中に再び黒いものが流れ込む。

そして、あの圧倒的な力にもう一度抵抗できるかどうか・・・。俺がもしも、あの黒いものに抵抗できると

すれば、それにはメリーが必要だ。

俺の大切なメリー。奴が黒のメリーと呼ぶ、あのいたいけな少女の笑顔。

それを守るためにも俺はこの鎌に触れないようにベッドの下に隠したんだ。

武器がないとすると、今のうちに外へと逃げるか?

いや、相手の居場所を把握し、瞬間といっていい移動速度で相手に近づいていく。それが都市伝説「メリーさんの電話」

もし「メリーさん」が複数存在するとすれば・・・。この紫のメリーが、その都市伝説を担う「メリー」の一人

だとすれば、どこに逃げても同じことだ。

「明日の朝には、また来るからね!」

そういって、麻子の家へと連れ去られていったメリー・・・。

明日の朝、あいつが来たら、俺は魂を刈られた抜け殻のような状態・・・死んでいるのかも知れない。

紫のメリーの鎌は相当深く刺さっているらしく、なかなか壁から抜けない。俺は、紫のメリーに声をかけた。

「メリーを・・・黒のメリーを開放するとはどういうことだ?」

壁の鎌に集中していた紫のメリーは、少しビクッとして、振り返った。驚いた顔を見せぬように、少し間を

おいて顔を整えてから・・・。

「言葉どおりですわ・・・。それ以上でもそれ以下でもございませんの・・・」

俺にそう答えた紫のメリーは、少しうろたえているようにも見えた。

「どうしても俺を刈らなければ・・・だめか?」

俺はベッドに座り、さらにむらさきのメリーに声をかけた。相手の余裕がなくなっているのがわかって、

俺にも余裕が生まれたからだろうか?それとも、このクールで冷たく見えた紫のメリーの素の部分が

見えたことに俺自身が安心したからだろうか?

その言葉を聞いた紫のメリーは、鎌を手放して、俺にまっすぐ向き直った

「当然ですわ。それが黒のメリーのため。しいては私のためでもありますのよ」

紫のメリーの表情は、うろたえたところを消し去り、冷たい青い瞳は俺をまっすぐ見据えていた。

 

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紫6

「俺も死ぬわけには、いかないんだ。メリーの・・・お前が黒のメリーと呼ぶあいつのために・・・」

そうだ、明日の朝、この部屋を訪れたメリー・・・俺の大切なメリーに、あのときのような、妄想の中で

ひざを抱え、裏切られたと思って、再び鎌を手にしなければ立ち上がれなかったような圧倒的な絶望

を味あわせるわけにはいかない。そのためにも、俺は死ぬわけにはいかないんだ。俺は紫のメリーへめけた視線に力を込める。

「いい表情をなさいますね。その顔で黒のメリーをとりこにしたのかしら」

という言葉を残し、壁の鎌に向かった。

俺は、決心を固めた。死ぬわけにはいかないんだ。どうあっても、死ぬわけにはいかない。

俺は脚でベッドの下をあさった。鎌を包んだ毛布の端を足でつかみ、引きずり始めた。紫のメリーに気づかれないように。

「わからなくも・・・ないですわね」

紫のメリーは、こちらを向かずに、誰に言うでもなく言葉を続けた。

「そこまで思われる・・・大切にされるのなら・・・私しも・・・」

ゆっくりと、ベッドから、音を立てないように鎌を引きづり出す

「しかし、それではだめなのですわ・・・私したちの存在理由が・・・」

ベッドの下から完全に鎌を包んだ毛布が姿を現した。紫のメリーを見る。彼女の鎌は壁から抜かれていた。

「だから、あなた・・・死んでくださるかしら!」

 

紫のメリーは振り向きざまにまっすぐ俺の脳天めがけて鎌を振り下ろそうとしていた。

俺は、毛布の端を脚でつかみ、蹴り上げるように引っ張る。

舞い上がる毛布。紫のメリーの鎌は、そのまいあがった毛布を何の抵抗もなく、切り進んでいた。まっすぐに俺の脳天めがけて・・・。

しかし、紫のメリーの鎌は、俺の脳天をまではたどり着かなかった。

毛布とともに回転しながら舞い上がった鎌。俺はその柄をつかんで、紫のメリーの鎌の行く手を阻んだ

「な、なんですの?」

毛布で俺の手にした鎌の全貌が見えず、何が自分の鎌の行く手をふさいでいるのかわからない紫のメリー。

俺は紫のメリーの鎌をはじき返して毛布を取り除いた。

「く、黒の・・・・鎌・・・」

紫のメリーが固まっていた。俺は鎌を構えなおした。次の攻撃に備えるために・・・。そのときだった・・・。

どっく・・・・・ん・・・。俺の心臓が大きく脈打った。と同時に、鎌と触れている手から、何かが流れ込んでくる不快感が俺を・・・襲っていた・・・。

ど・・・っ・・・く・・・ん・・・・・。

posted by 126 at 09:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 第七の情景「紫」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

紫7

「黒の鎌を・・・人間ごときが・・・」

紫のメリーの顔に驚きと怯えが見える。

まだだ。まだ、大丈夫だ。今まで何度かこの不快感と対峙してきている。少し慣れてきたということなのだろうか、流れ込んで

くる黒いものの量が少ないような気がする。

俺はゆっくりと立ち上がった。紫のメリーをおびえさせればいい。そして、ここから去ってくれればそれでいい。それまでの間、何

とか、俺の神経が、流れ込んでくる黒いものに抵抗できれば、それでいい。

ど・・・っ・・・く・・・ん・・・。

ある一定の時間ごとに心臓が大きく脈打つ。そのたびごとに、俺は気を失いそうな感覚に陥る。

「き、君もメリーと・・・言ったな・・・。すまないが、俺はしぬわけに・・・は・・・行かないんだ・・・」

何とか紫のメリーに話しかける。まともな言葉を発するのもやっとというのが本当のところだ。

黒いものは、流れ込みながら、俺の意識に向かって、声をかけようとしている。

その誘惑や欲望をシャットアウトしながら、自分の意思で身体をコントロールする。それには、常に、メリーの俺の大切なメリー

の笑顔を頭に思い浮かべていなければならなかった。

「い、意識が・・・あるんですの?」

俺の顔を覗き込むように見入る紫のメリー。

「意識が・・・人としての意識があるのであれば、おそるるに足らないですわ!」

紫のメリーの顔から怯えが消えた。攻撃態勢をとるや否や、朦朧としている俺に向けて水平に鎌を滑らせてくる。

一瞬意識が途切れた。俺の手は片手で鎌をもってやはり柄の部分で紫のメリーの鎌をとめていた。

ものすごい音と鎌同士のぶつかる反動で、意識が目覚めたとき、紫のメリーは、鎌を手放して床に転がっていた。

「帰ってくれ。君の目的が何かは知らない。確かに俺が死ねば、悲しみの中でメリーはまたもとのように都市伝説の中で生き

るモノとなるかも知れない、けど・・・」

「まったくお馬鹿で自意識過剰でうぬぼれもここまで来たら、素敵だとも思えてしまいますわ」

紫のメリーは、立ち上がりながら、俺の言葉をさえぎった。

「誰があなたが死んだ悲しみなんかで、メリーを解放するといったのかしら?」

posted by 126 at 09:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 第七の情景「紫」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

紫8

立ち上がった紫のメリーは、俺を見下すように、哀れむように、視線を送っていた。

「私たちメリーの召喚は一種の契約。あなたが死なない限り、黒のメリーは次の契約を結べないのですわ。」

「・・・契約・・・」

「そう・・・。あなたがどうやって、黒のメリーを召喚したのかは知らない。知りたくもありませんわ。しかし、このまま黒のメリーが

この地にとどまり、都市伝説の持つ神秘性を失えば、彼女は都市伝説ではなくなる。やがて私たちも・・・」

「私たち・・・?」

「あら、おしゃべりが過ぎてしまったようですわ。さて・・・」

紫のメリーは、鎌を構えなおした。再び、俺を攻撃してこようとしているのだろう。

「まて、メリーは・・・メリーと呼ばれる存在は・・・・複数いるのか?」

紫のメリーは、口をつぐんだまま、俺をにらみつけていた。

「都市伝説ではなくなるというのは、どういうことなんだ?」

俺の言葉を切り裂くように鎌が滑り始めた。しかし、俺のほうもそろそろ限界に近かった。身体の中が黒いもので満たされて

しまったような感覚が先ほどから俺を襲っていた。

身体が自由に動かない。目だけが、滑りくる紫のメリーの鎌を捕らえていた。それは不思議な感覚だった。ものすごい速さで

俺に向かってきている事は感覚としてつかめるのだが、俺の目に映る鎌は非常にゆっくりとした動きで徐々に近づいていた。

俺は、動きの鈍い体をゆっくりとそらした。鎌が滑り込んでくると予測されるラインから身体を逃がした。

鎌はゆっくりと、俺の前を通過していく。メリー・・・紫のメリーの顔が険しくなる。

タン!

紫のメリーが鎌の行き過ぎてしまうのを待たず、鎌の軌跡を足の蹴り上げて変えた。蹴り上げられた鎌は、ふわりと舞うスカー

トとそこから覗く少女の美しいラインを保った太ももに俺が気をとられているうちに、俺の真上に来ていた。

・・・体が勝手に動いていた・・・。

俺の意思ではないものによって、俺の腕は、鎌の軌跡を止めた。とめるだけではない。鎌を跳ね返して、紫のメリーに向けて鎌

を繰り出していた。意識ははっきりしていた。むしろ先ほどまでの黒いものからの呼びかけが、まったく消えていた。俺の身体の

中・・・いや、意識への関与をやめたのか?身体の自由が利かないだけで、俺の意識は鎌を手にする前と同じだった。

激しく、紫のメリーへの攻撃を続ける俺。しかし、やめようにも俺の身体は、まったく俺の言うことを聞いてくれなかった。

「・・・人間・・・あなた、何者ですの?鎌を・・・ここまで・・・使いこなせるとは・・・」
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紫9

紫のメリーは完全におびえていた。反撃をしようにも、その暇をまったく与えない連続した攻撃。

・・・のっとられた・・・・。

俺は、実感していた。今、俺の身体は、黒いものによって動かされているのだ。

しかし、紫のメリーは、そのことを知らない。あの圧倒的な力の根源とも言うべき黒いものの存在を、彼女も知っているのであれば、それを人間が、人間ごときが、克服できるはずはないと、そう思っていたのだろう。

その人間におびえさせられ、劣勢に甘んじている今の状況。

彼女のプライドがそれを許さない、しかし、今の彼女ではどうしようもない・・・。圧倒的な力の差は、彼女の美しい顔に恐怖と

あせりとなって現れていた。

「あ、あなた・・・本当に・・・人間です・・・の?」

紫のメリーは、クローゼットのある部屋まで逃げていた。俺の、黒いものの操る俺の繰り出す鎌の攻撃を防ぎながら、後ずさり

をしながら。しかし、もう後はなかった。クローゼットが壁となり、紫のメリーの逃げ場をなくしていた。

・・・・どうするつもりだ?

俺は不安になった。まさか、俺の中の黒いものは、目の前でおびえる紫のメリーを、どうするつもりなんだ?

俺の横に鏡がある。視線の端に執拗に紫のメリーに攻撃を仕掛ける俺の姿が映る。

それは・・・俺ではなかった。いや、正確には俺なのだが、目は血走り、口元はまるで避けたように大きく開き、そこからよだれ

を垂れ流した、獣の顔。

「紫の・・・。わしの邪魔を・・・するとは・・・偉くなったものだな・・・」

よだれを垂れ流した口元から、しゃがれた俺のものとは違う声が漏れ始めた。

・・・黒いもの・・・・。

「わしに・・・干渉する・・・のならば・・・お前・・・消えるか?」

俺の・・・黒いものの攻撃が止まる。紫のメリーは、がたがたと震えだしていた。

「黒・・・の・・・鎌の・・・意思・・・?」

紫のメリーは、完全におびえていた。単純に物理的な攻撃への恐怖ではない、根本的な恐怖。目の焦点が合わず、ただただ

震えていた。
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紫10

「・・・消えて・・・みるか?」

俺の中で、黒いものが増大していくのがわかった。

・・・こいつ・・・やるきなのか?・・・

視線の端で鏡に映る俺の姿は、これから行う事柄に狂喜していた。

・・・・俺じゃない!あんなのは俺じゃない!・・・・

俺は・・・黒いものは、鎌を大きく持ち上げた。

目の前で紫のメリーは、目を閉じた。諦めなのか、恐怖に耐えられないのか、鎌を置いて頭を抱え込んでいた。

まるで、ぶたれる前の子どものように。

その姿は、ただの一人の少女だ、おびえて縮こまる一人の少女だ。

 

俺の中で次第に増大しつつある黒いもの。

こいつをこのままにしておいたら、紫のメリーは、黒の鎌の餌食になってしまう。

目の前のまったく抵抗できない少女・・・。鎌に操られているとはいえ手にかける事は、どうしても避けたい。

俺は自分の腕を意識した。

・・・メリー・・・力をくれ!・・・

メリーの笑顔を、健気さを、思い返してみた。

俺の腕は、俺の意識と反して、鎌を振り下ろす。

・・・頼む!やめろ!・・・

鎌は振り下ろされた。紫のメリーの本の10センチ手前の床に、鎌は突き刺さっていた。

「え?どうして?」

紫のメリーが恐る恐る顔を上げる。

「早く。逃げろ!」

一瞬制御を取り戻した俺の身体で、俺は紫のメリーに叫んだ。

しかし、それも一瞬で腕の筋肉は奴に奪われ、俺の意識は、背後に追いやられた。

「・・・邪魔をするな。」

俺の中の黒いものが、いや、黒の鎌の意思が俺の口を借りて語る。

「・・・お前を殺そうとしているのだぞ・・・」

俺は必死に自分の意識を前に押し出す。今のこの状態では、黒い鎌の意思と身体の中で会話をするということができなくな

っていた。身体の優先権を奪い合う状況の中で、黒の鎌の意思も俺の身体をうまく操れないでいるような状態にあった。

「わかってる・・・よ・・・だからって、女の子を消すとか・・・そんな事は・・・俺が・・・させな・・・い・・・」

何とか意識を前に押し出したがそれだけを言うのが限界だった。

「ばか者・・・こやつは・・・すでにメリーが、黒のメリーが契約をした獲物を・・・横取りし、メリーを、黒のメリーを自分の下僕にし

ようとしているのだぞ」

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紫11

黒の鎌の意思が俺の身体を使い、紫のメリーをにらみつける。紫のメリーは、がたがたと震えながらも、首を横に振った。

「滅相も・・・ございませんですわ・・・。お、おそれおおく・・て・・そ・・・んな・・こと・・・」

「口ではどうとでも言える・・・。黒のメリーを下僕にするという事は、このわし・・・黒の鎌の所有者となるということだ」

「・・・・・」

「こやつの狙いは、そこにあるのじゃ・・・。最強の鎌といわれる黒の鎌の力。このわしのマスターになること」

・・・そんなこと知るかよ!・・・

俺は再び、前に出ようとがんばってみた。しかし、黒の鎌の意思は、怒りで染まり、前に出る事はできなくなっていた。

身体も同じように俺の支配下から完全に離れていた。俺の腕が鎌を持ち上げていく。

紫のメリーが、目の前で震えていた。目に涙をためながら、恐怖で顔がゆがんでいた。

―――怖がらせれば、それでよかったの

メリーはそういっていた。

―――でも・・・とめることはできなかったの

メリーが、俺の大切なメリーがそういっていた。

今の俺もまさにその状況にあった。紫のメリーの命を取ろうなどとは思ってはいない。しかし、今の俺では、自分の身体をとめ

ることができない。

しかし、ここで俺があきらめてしまったら、この子は死んでしまうんだ。おびえたまま、なきながら死んでしまうんだ。

そんな事は・・・。

「そんなことさせるかぁぁぁぁぁぁ!」

俺は、意識を前面に押し出した。

―――な、なに?このばか者が・・・

身体の中に詰まった黒いものを押し出すように、はじき出すように、意識しながら、俺は叫んでいた。

「もう、俺の身体を使うなぁぁ」

次第に身体から黒いものが消えていく。鎌のほうへと逆流していくのを感じた。

「俺は・・・お前の操り人形じゃねぇぇぇ!」

最後の塊すら、押し返した。そこで、俺は力尽きたように、鎌を手放し、崩れるようにへたり込んだ。

顔を上げると、紫のメリーが驚いた顔で、俺を見つめていた。

posted by 126 at 09:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 第七の情景「紫」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

紫12

「大丈夫か?」

俺は驚き顔の紫のメリーに声をかけた。彼女は、目を丸くしたまま、うんうんとただうなずくだけだった。

「怖かっただろ?」

俺もへとへとだったが、何とか腕を挙げて、紫のメリーの頭をなでた。

それで落ち着いたのか、紫のメリーの驚いたまん丸な目からは、涙が溢れ出していた。

「もう、大丈夫だから・・・・」

そういうと、大声を上げて泣き出した。

「怖かったですの・・・」

高貴な雰囲気も冷たい視線もあったもんじゃない。こうなると外見どおりのただの女の子だ。

せめて何か涙を拭くものをとりにいこうと立ち上がろうとする。足腰がふらふらだ。自分の体力の限界を超えて、黒いものにこ

き使われた肉体は、激しい筋肉疲労を起こしていた。

それでも何とかバランスをとって立ち上がったとたんに、よろけてこけた。いや、コケなのではなかった・・・。

ようやくバランスをとったところだというのに、後ろから服のすそを引っ張る奴がいたのだ。

下唇をぎゅっとかんで、上目遣いで、俺を恨めしそうに見ながら、ないている・・・紫のメリー。

冷たい視線を俺に浴びせ、見下した態度をとっていたときにはそれなりに大人びて見えたのだが、こうなるとてんで子どもだ。

「・・・いやですの・・・」

「いや、タオルを取ってくるだけだから」

「ここから離れちゃ、いやですの!」

しかも・・・駄々っ子だ・・・。

「わかった、わかったから、服をつかんでるのを離しなさい」

「どこにも行かない?」

「いかないから・・・」

まあ、仕方がない、それほどまでに、怖かったということだろう。実際、まだ手放したとは言え、床に黒の鎌は横たわっている。

「ずっとそばにいてくれる?」

「はいはい」

その返事を聞いて安心したのか、紫のメリーはようやく俺の服を離して泣き止んだ。

 

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紫13

泣きやんだ紫のメリー・・・。

落ち着いたら聞きたいことは山ほどあった。

まず、俺を刈りに来た理由。メリーを解放するという言葉の意味。それが黒の鎌の意思が俺の体を通し

て語った通りなのかどうか。

「あ、あのさ・・・」

しかし聞きづらかった。クローゼットにもたれ、ひざを抱えるように坐っている彼女の、きれいなストレート

ロングの黒髪に目が行った。

・・・・お、おさげにしてぇ・・・

・・・いや、違う・・・。今考えなければいけないのは、もっと重要なことだ・・・。

「・・・どっかいっちゃ・・・いやなの」

改めて声をかけようとすると、先手を打って服の裾をつかんでくる。

「・・・いや、あの・・・行かないから、教えてほしいんだ」

「・・・な、なんですの?」

「まず、君は、何者なんだ?」

そうだ。メリーと名乗るこの少女が、俺の調べていたメリーと同じとは限らない。

しかし、人外のものであるのは間違いないだろう。

黒の鎌に操られていた俺の攻撃への反射神経、人間でもかなりの武道家と同様の動きと見た。つまり、

こいつも恐ろしいことに麻子と同じぐらいの攻撃力を持っているということだ。

「な、何者ってなんですの?」

「いや、君は紫のメリーと名乗った。俺の召喚した子を黒のメリーと呼んだ・・・メリーは・・・たくさんいるのか?」

「・・・・・」
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紫14

紫のメリーは視線を落とし、服の裾を離した。

「言いたくないのか?」

紫のメリーは首を横に振った。

「ちがうのですわ・・・本当に黒のメリーが堕ちたのも・・・」

後半が聞こえない。

「え?黒のメリーがどうかしたのか?」

「黒のメリーが堕ちたのも無理がないって、言ったんですわ!」

と真っ赤になった顔を上げて急に立ち上がる。

「もう寝ますわ!お布団お借りしますわね!」

と逆切れ口調なのに、丁寧な言葉遣いをやめない彼女は、勝手に俺のベッドにもぐりこんでしまった。

あっけにとられていると、ふとんにもぐりこみながらごそごそとうごめいている・・・。

布団がまるで巨大ないもむしのように、のたうっていた。

しばらくすると、相当動いていたにもかかわらず、まったく乱れていない黒髪が現れた。

そして何かが、投げつけられた。

紫のメイド服・・・。先ほどまで紫のメリーが身につけていたもの。まだぬくもりが感じられそうなそれが俺の手の上にあった。

「しわにならないようにちゃんとたたんでおくのですわ!」

「はぁ?」

俺の抗議も耳にせずに、紫のメリーは再び布団にもぐりこんでいった。

仕方なしに紫のメリーの服をきちんとたたみ、枕元へとおいておいた。

 

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紫15

「なんだって、俺が・・・」

と愚痴ろうとしたとき、また、紫のメリーが顔を出す。

今度は真っ赤な顔をしている。

よく見ると、布団のすそから手が出ている。

「なんだ?」

と聞くとまた、布団の中に顔をうずめて、ぼそぼそとした声で何かを言った。

「聞こえないよ」

何を言っているのかまったく聞こえなかった。

「・・・怖いから・・・手を・・・つないでい・・・て・・・ください・・・」

・・・・・。

紫のメリーの高慢な態度からは想像できないしおらしい言葉が、かすれながら細々と聞こえてきた。

あまりの事に俺は、「は?」と聞き返してしまった。

すると、ガバッと布団をはいで、やはり真っ赤な顔をした紫のメリーが起き上がった。

「・・・な、何回も言わせないでほしいのですわ!は、はずかしい・・・んだから!」

・・・・・。

起き上がった紫のメリーは・・・洋服を着ていない。かわいい下着姿で、俺の前に座っていた・・・・。

「・・・・・」

俺は何も言えずに固まっていた。

そんな俺の姿でわれに返ったのか・・・。紫のメリーは、急いで布団の中へともぐりこんだ。

「も、もういいですわ・・・。そこで、私のことをま、守るの・・・ですわ」

と言い放って、俺に背を向けた。

・・・守るかどうかは別にして・・・俺は固まったままだった。

俺のメリーに負けず劣らずの美少女・・・しかも、俺のメリーよりも成長した・・・その・・・なんだ・・・身体。

落ち着こう・・・俺は殺されるわけにもいかないが、こんな形でメリーを裏切るわけにもいかない。

 

紫のメリーは、俺に背中を向けるとすぐに寝息を立てた。無防備というか、なんと言うか・・・。

俺は、彼女の寝息に気づくまでの間、身を固くして、動かないように動かないようにと自分を抑え続けて

いた。まあ、なんだ・・・少しでも動いてしまうと、その・・・俺のメリーへの忠誠というか、一途な思いが揺

らいでしまいそうな気がするほどに、先ほどの真っ赤な顔で布団にもぐりこむ紫のメリーの姿が・・・そ

の・・・かわいかったというか、色っぽかったというか・・・まあ、そういうこと・・・なんだが・・・。

寝息に気づいた俺は、彼女に気が疲れないようにそっとベッドの横から離れた。

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紫16

まず、床の上に放置された危険な代物を何とかしなければならない。

そうだ・・・黒の鎌・・・。

思い返してみると、この鎌はただの鎌ではない・・・。もともと俺のメリーを知ったきっかけになったメリー召喚のまとめサイト上にも、この鎌の事は、さまざまな仮説として書かれていた。

何者かが死んでいく不幸な少女与えた「死神の鎌」であるという説。

古代の大魔道師ヒ・ダールのもたらした道返しの剣が現在に伝わったものという説。

日本の古来の伝承に鎌の正体を求めるものもいて、その説は本当なのか書き込んだ人間の創作なのかわからなくなっていた。

その中に確かひとつ、奇妙な書き込みがあったのを思い出した。

その書き込みには、確かに「黒き鎌」と明記されていた。

俺は急いでパソコンを立ち上げた。現在はもう、インターネット上に存在しないまとめサイト。俺はそのサイトを自分で保存していた。「黒」「鎌」で検索をかける。出てきたのは4つ

『黒き鎌は、紅毛の地より渡り、多くのものを惑わし、特別なる修行を行いし仙人を持ってしても使役する事は叶わず』

『黒き鎌は、人心を惑わし、人心を麻痺させ、人心を食らう。』

『メリーの持つ鎌は、黒き鎌と呼ばれるもので、人形であるメリーにしか扱えない。人間の心を持つものが使おうとすると、心を蝕まれる』

そして・・・。

『黒き鎌は、最強にして、意思をもち、自らの持ち主を選ぶ・・・』

 

「・・・持ち主を・・・選ぶ・・・」

紫のメリーとの戦いのさなか、黒の鎌が行っていた言葉・・・。

『黒のメリーが契約をした獲物を横取りし、自分の下僕にしようとしている』

『最強の鎌といわれる黒の鎌の力。このわしのマスターになる』

 

つまりは、黒のメリーが契約した獲物というのが俺なわけだ・・・。俺がメリー・・・俺のメリーに殺されるの

ではなく、他の・・・他にいるのかどうかわからないが、何者かに殺されでもしたら、俺のメリーはそのもの

の下僕となる。そして、メリーを持ち主として選んだ黒の鎌の所有者となるということか・・・。

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紫17

―――そうだーーー

俺は改めて、鎌の方を見た。もう何度も俺の頭の中で聞いた声。黒の鎌の意思が俺に語りかけているのを感じたからだ。

―――お前の考えたとおり、わしは黒のメリーをマスターとして選んだ。しかし、メリーがわしを拒み、わしを手に取らぬ限り、メリーはお前を殺す事はできぬ。

―――他のメリーがかぎつけてくるとは、しかもこんなにも早く・・・。

―――事情が変わってきた。お前に死なれ、わがマスターなるメリーが他のものの下僕となることだけは避けねばならぬ。

「それは、お前のマスターがメリーから俺を殺したものに変わるからか?」

―――わしのプライドもある。つまらぬ小物の魔物に使役されねばならぬのはたえられん。しかし・・・

「しかし?」

―――わしの選んだ・・・いや任された娘を下僕などにするわけにはいかぬ。

「任された?」

―――それはよい。お前は、命を狙われるものとなった。メリーを名乗るものだけではない。他にもわしの力を欲しがっておる魔物やアヤカシは数多くいるであろう。

 

・・・俺が、命を狙われる・・・。数多くの魔物に?

―――こうなれば、方法は3つ

―――1つ目の方法は、お前が自ら死を選ぶこと・・・

―――そうして、メリーを解放すれば、何も問題は生じない。メリーの中に更なる憎しみと悲しみが芽生

え、人外のものとしての成長を遂げる。

―――2つ目は、お前がメリーに変わり、このわしのマスターなること・・・

―――先ほどのわしを跳ね除けた心の力。アレを持っておれば、迫りくる小ぶりの魔物など敵ではない。な

にせ、このわしがついておる。

―――しかし、わしの望みは、お前が死すること。願わくばメリーの手にかかるか、メリーを絶望のふちに

陥れること。何よりもわしの望むのは、人としてのメリーの心を真っ黒にしてしまうことだ。

「そ、そんなこと!」

―――まあ、最後まで聞け。もしくは・・・・

俺は黙った。

―――メリーとお前の契約を解除させること・・・

「え?」

―――お前を殺さぬ限り、メリーは次の契約を結ぶ事はできぬ。つまり、別のものを刈りにいくと言う事

はできないということだ。

―――それゆえに、お前が狙われる。契約さえなくなってしまえば、獲物を横取りしようなどと思うものも

いなくなる。お前も安全で、メリーも誰かの下僕になる事はない。

「それだ!それはどうやるんだ?」

―――しらぬ・・・。

「は?」

―――一度交わした契約を解除したことがあったという話は聞いたことがあるが、もう何十年も前に一

度だけだ。それがどのように行われたのかはしらぬ。誰が知っているのかも、わからぬ。

 

「わからぬって・・・あんたが絡んでいたんじゃないのかよ!」

俺は紫のメリーが眠っていることも忘れて、叫んでいた。

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紫18

「うぅ・・・ん?」

背後でうなされるような声がして、俺はゆっくりと振り返った。

俺の注意が俺の内面というか、脳のどこかでつながっているような感じの黒い鎌から離れたことで、頭

に響いていた黒い鎌の気配は消え去った。

・・・まあ、いいか・・・。

おれは、黒い鎌に聞きたいことが、まだまだたくさんある。このままでは、俺は、この紫のメリーのように

俺を狙う奴から逃げ惑わなければならない上に、もしも、俺がそいつらの手によって死を迎えてしまった

ら・・・。俺のメリーは、そいつらのしもべとして、扱われてしまうということだ。

魔物たちのしもべと言うのがどのような状態なのかわからないが、メリーに自由はなくなるということだ

ろう。メリーの笑顔を奪うことになるのだろう。そんな事は絶対になってはいけない。

なら、俺が・・・メリーの手にかかればいい・・・。ということなのだろうか?

メリーが望むのであればそれでもいいとも思う。もともと、そんなに生に執着しているほうではない。惰性

で生きている。それが自分の生き方についていえることだと思う。

死んでいないから、今、生きている。

日常の中で喜ぶことも、怒ることもあるが、取り立てて目的もないまま、ただ生きている。それがメリーを

知るまでの俺の行き方だ。

ただ、メリーを知ったときの焦燥感・・・。本当に俺はメリーに会いたいと思った。その情熱。メリーのため

になら、死んでいけると、俺は思う。しかし、俺が死んだ後、メリーが悲しみにくれ、再び鎌を手にのろい

の言葉を吐きながら、笑顔をはじけさせることもないようなことになるのであれば・・・。俺は死ねない。

そうだ、俺はメリーを大切に、そして幸せにしてやるんだ。安心して、些細な幸せを拾い集めることができ

るように・・・。そのためには、俺は死ぬわけにはいかない。

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紫19

「・・・ん・・うぅ・・んん・・」

振り返った先、俺のベッドに眠る紫のメリーは、汗をかいて、うなされていた。

黒い鎌の夢でも見ているのだろうか?苦しそうな表情で顔をしかめていた。

俺は、布団から出ている紫のメリーの手を握った。

「怖かったろうな・・・確かに・・・」

俺は、思い返していた。鏡に映った自分の姿。俺であって俺ではない、黒い鎌にのっとられた獣のような

姿。目は真っ赤に充血し、口からはよだれがとめどなく滴り落ちていた。

「もう、大丈夫だからな・・・」

俺は眠っている紫のメリーにそっと声をかけた。

そういえば、俺も・・・こうしてよく手を握ってもらった。

俺は捨てられ、拾われた。ひどい虐待の後に、俺一人を残して消えた両親。その後に、毎日やってくる借

金取り。そいつらにひどい言葉をかけられ殴られる日々のなかで、俺をかばってくれた人がいた。

それが俺の今の親父だ。麻子の親父さんとは友人だというが、いまだに、謎の多い人で、1年の半分以

上は海外にいる。その親父が、俺の家に乗り込んできて、借金取りから俺を救い出した。

最初は、別の借金取りだと思った。それぐらい勢いよく無神経に借金取りの間に割り込み、奴らを殴り

倒し続けた。相手がもう立てなくなるほどにいため続けた。そして、最後に親父は言った。

「お前らがこの子に与えた苦痛は、この程度ではすまない。本当の苦痛というものを、おしえてやろうか?」

5人の借金取りは。立ち上がることすらできずにおびえていた。涙を流しながら首を横に振ることしかで

きなかった。

親父はゆっくりと俺の方に近づいてきて、手を握った。
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紫20

「もう、大丈夫だからな」

そういって、二カッと笑った。色黒で真っ白な歯が印象的だった。しかし、俺は笑うことも、うなづくことも

できなかった。大丈夫という言葉が何を意味するものなのかも、わからず、心を殺したまま、うつろな表

情で親父を眺めていた。

「目が死んでるな・・・」

親父はそういうと俺を抱き上げ、力いっぱい抱きしめた。何が起こっているのかわからなかった。

「人間はな、あったかいんだ。俺の心臓の音が聞こえるか?」

胸に押し付けられた耳に、わずかに親父の心臓の音が伝わってきた。俺はゆっくりと目をつぶった。

そのまま眠ってしまったんだろう。気がつくと、暖かい布団の上で俺は眠っていた。その傍らに親父がい

た。俺の手を硬く握り締めたまま自分は布団もかぶらずに、横になっていた。

身動きもせずに目だけ開けただけなのに、親父の目がカッと開いた。

「安心して眠れ。眠って、目が覚めても、俺がいてやる」

それだけ言って、また目をつぶった。

力強い言葉だった。握られた手からその言葉が本当なんだと思えた。目を覚ましても誰もいない。そんな毎日を過ごしていた俺はそこで初めて涙をこぼした。

おそらく、親父は俺が泣いていることに気がついていただろう。しかし、目を開けることもせず、少し・・・ほんの少し握った手に力を込めただけだった。

安心できた。それだけなのに、俺はものすごく安心できた。ここにいてもいいのだと。この人はそばにい

てくれるのだと。そう思えた。

それからも、何度も何度も、俺は、昔の事を思い返して、夜中に目が覚めることがあった。そのときには、

親父が必ず、布団の横で俺が眠るまで手をつないでいてくれた。

そしてそんな日は、必ず朝、目が覚めるまで親父は手を離さずにそこにいてくれた。

 

俺は紫のメリーを見ながらそんな昔の事を思い返していた。

・・・親父の真似でもしてやるか。

俺は、紫のメリーの手を握ったまま、ベッドに背を向けてもたれかかった。目の前の床に放置されたままの黒い鎌。毛布でくるんで片付けようと思っていたんだが、そのままにした。

目をゆっくりと閉じた。

メリーは・・・俺のメリーは眠ったのかな?

俺は少しにやつきながら、深く息を吐き出した。そして、そのまま、眠りについた・・・。

頭の片隅に、何か引っかかるものがあったが、もう、すでに思考能力は低下していた・・・。

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