2007年01月05日

紫14

紫のメリーは視線を落とし、服の裾を離した。

「言いたくないのか?」

紫のメリーは首を横に振った。

「ちがうのですわ・・・本当に黒のメリーが堕ちたのも・・・」

後半が聞こえない。

「え?黒のメリーがどうかしたのか?」

「黒のメリーが堕ちたのも無理がないって、言ったんですわ!」

と真っ赤になった顔を上げて急に立ち上がる。

「もう寝ますわ!お布団お借りしますわね!」

と逆切れ口調なのに、丁寧な言葉遣いをやめない彼女は、勝手に俺のベッドにもぐりこんでしまった。

あっけにとられていると、ふとんにもぐりこみながらごそごそとうごめいている・・・。

布団がまるで巨大ないもむしのように、のたうっていた。

しばらくすると、相当動いていたにもかかわらず、まったく乱れていない黒髪が現れた。

そして何かが、投げつけられた。

紫のメイド服・・・。先ほどまで紫のメリーが身につけていたもの。まだぬくもりが感じられそうなそれが俺の手の上にあった。

「しわにならないようにちゃんとたたんでおくのですわ!」

「はぁ?」

俺の抗議も耳にせずに、紫のメリーは再び布団にもぐりこんでいった。

仕方なしに紫のメリーの服をきちんとたたみ、枕元へとおいておいた。

 

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紫13

泣きやんだ紫のメリー・・・。

落ち着いたら聞きたいことは山ほどあった。

まず、俺を刈りに来た理由。メリーを解放するという言葉の意味。それが黒の鎌の意思が俺の体を通し

て語った通りなのかどうか。

「あ、あのさ・・・」

しかし聞きづらかった。クローゼットにもたれ、ひざを抱えるように坐っている彼女の、きれいなストレート

ロングの黒髪に目が行った。

・・・・お、おさげにしてぇ・・・

・・・いや、違う・・・。今考えなければいけないのは、もっと重要なことだ・・・。

「・・・どっかいっちゃ・・・いやなの」

改めて声をかけようとすると、先手を打って服の裾をつかんでくる。

「・・・いや、あの・・・行かないから、教えてほしいんだ」

「・・・な、なんですの?」

「まず、君は、何者なんだ?」

そうだ。メリーと名乗るこの少女が、俺の調べていたメリーと同じとは限らない。

しかし、人外のものであるのは間違いないだろう。

黒の鎌に操られていた俺の攻撃への反射神経、人間でもかなりの武道家と同様の動きと見た。つまり、

こいつも恐ろしいことに麻子と同じぐらいの攻撃力を持っているということだ。

「な、何者ってなんですの?」

「いや、君は紫のメリーと名乗った。俺の召喚した子を黒のメリーと呼んだ・・・メリーは・・・たくさんいるのか?」

「・・・・・」
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紫12

「大丈夫か?」

俺は驚き顔の紫のメリーに声をかけた。彼女は、目を丸くしたまま、うんうんとただうなずくだけだった。

「怖かっただろ?」

俺もへとへとだったが、何とか腕を挙げて、紫のメリーの頭をなでた。

それで落ち着いたのか、紫のメリーの驚いたまん丸な目からは、涙が溢れ出していた。

「もう、大丈夫だから・・・・」

そういうと、大声を上げて泣き出した。

「怖かったですの・・・」

高貴な雰囲気も冷たい視線もあったもんじゃない。こうなると外見どおりのただの女の子だ。

せめて何か涙を拭くものをとりにいこうと立ち上がろうとする。足腰がふらふらだ。自分の体力の限界を超えて、黒いものにこ

き使われた肉体は、激しい筋肉疲労を起こしていた。

それでも何とかバランスをとって立ち上がったとたんに、よろけてこけた。いや、コケなのではなかった・・・。

ようやくバランスをとったところだというのに、後ろから服のすそを引っ張る奴がいたのだ。

下唇をぎゅっとかんで、上目遣いで、俺を恨めしそうに見ながら、ないている・・・紫のメリー。

冷たい視線を俺に浴びせ、見下した態度をとっていたときにはそれなりに大人びて見えたのだが、こうなるとてんで子どもだ。

「・・・いやですの・・・」

「いや、タオルを取ってくるだけだから」

「ここから離れちゃ、いやですの!」

しかも・・・駄々っ子だ・・・。

「わかった、わかったから、服をつかんでるのを離しなさい」

「どこにも行かない?」

「いかないから・・・」

まあ、仕方がない、それほどまでに、怖かったということだろう。実際、まだ手放したとは言え、床に黒の鎌は横たわっている。

「ずっとそばにいてくれる?」

「はいはい」

その返事を聞いて安心したのか、紫のメリーはようやく俺の服を離して泣き止んだ。

 

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紫11

黒の鎌の意思が俺の身体を使い、紫のメリーをにらみつける。紫のメリーは、がたがたと震えながらも、首を横に振った。

「滅相も・・・ございませんですわ・・・。お、おそれおおく・・て・・そ・・・んな・・こと・・・」

「口ではどうとでも言える・・・。黒のメリーを下僕にするという事は、このわし・・・黒の鎌の所有者となるということだ」

「・・・・・」

「こやつの狙いは、そこにあるのじゃ・・・。最強の鎌といわれる黒の鎌の力。このわしのマスターになること」

・・・そんなこと知るかよ!・・・

俺は再び、前に出ようとがんばってみた。しかし、黒の鎌の意思は、怒りで染まり、前に出る事はできなくなっていた。

身体も同じように俺の支配下から完全に離れていた。俺の腕が鎌を持ち上げていく。

紫のメリーが、目の前で震えていた。目に涙をためながら、恐怖で顔がゆがんでいた。

―――怖がらせれば、それでよかったの

メリーはそういっていた。

―――でも・・・とめることはできなかったの

メリーが、俺の大切なメリーがそういっていた。

今の俺もまさにその状況にあった。紫のメリーの命を取ろうなどとは思ってはいない。しかし、今の俺では、自分の身体をとめ

ることができない。

しかし、ここで俺があきらめてしまったら、この子は死んでしまうんだ。おびえたまま、なきながら死んでしまうんだ。

そんな事は・・・。

「そんなことさせるかぁぁぁぁぁぁ!」

俺は、意識を前面に押し出した。

―――な、なに?このばか者が・・・

身体の中に詰まった黒いものを押し出すように、はじき出すように、意識しながら、俺は叫んでいた。

「もう、俺の身体を使うなぁぁ」

次第に身体から黒いものが消えていく。鎌のほうへと逆流していくのを感じた。

「俺は・・・お前の操り人形じゃねぇぇぇ!」

最後の塊すら、押し返した。そこで、俺は力尽きたように、鎌を手放し、崩れるようにへたり込んだ。

顔を上げると、紫のメリーが驚いた顔で、俺を見つめていた。

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紫10

「・・・消えて・・・みるか?」

俺の中で、黒いものが増大していくのがわかった。

・・・こいつ・・・やるきなのか?・・・

視線の端で鏡に映る俺の姿は、これから行う事柄に狂喜していた。

・・・・俺じゃない!あんなのは俺じゃない!・・・・

俺は・・・黒いものは、鎌を大きく持ち上げた。

目の前で紫のメリーは、目を閉じた。諦めなのか、恐怖に耐えられないのか、鎌を置いて頭を抱え込んでいた。

まるで、ぶたれる前の子どものように。

その姿は、ただの一人の少女だ、おびえて縮こまる一人の少女だ。

 

俺の中で次第に増大しつつある黒いもの。

こいつをこのままにしておいたら、紫のメリーは、黒の鎌の餌食になってしまう。

目の前のまったく抵抗できない少女・・・。鎌に操られているとはいえ手にかける事は、どうしても避けたい。

俺は自分の腕を意識した。

・・・メリー・・・力をくれ!・・・

メリーの笑顔を、健気さを、思い返してみた。

俺の腕は、俺の意識と反して、鎌を振り下ろす。

・・・頼む!やめろ!・・・

鎌は振り下ろされた。紫のメリーの本の10センチ手前の床に、鎌は突き刺さっていた。

「え?どうして?」

紫のメリーが恐る恐る顔を上げる。

「早く。逃げろ!」

一瞬制御を取り戻した俺の身体で、俺は紫のメリーに叫んだ。

しかし、それも一瞬で腕の筋肉は奴に奪われ、俺の意識は、背後に追いやられた。

「・・・邪魔をするな。」

俺の中の黒いものが、いや、黒の鎌の意思が俺の口を借りて語る。

「・・・お前を殺そうとしているのだぞ・・・」

俺は必死に自分の意識を前に押し出す。今のこの状態では、黒い鎌の意思と身体の中で会話をするということができなくな

っていた。身体の優先権を奪い合う状況の中で、黒の鎌の意思も俺の身体をうまく操れないでいるような状態にあった。

「わかってる・・・よ・・・だからって、女の子を消すとか・・・そんな事は・・・俺が・・・させな・・・い・・・」

何とか意識を前に押し出したがそれだけを言うのが限界だった。

「ばか者・・・こやつは・・・すでにメリーが、黒のメリーが契約をした獲物を・・・横取りし、メリーを、黒のメリーを自分の下僕にし

ようとしているのだぞ」

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紫9

紫のメリーは完全におびえていた。反撃をしようにも、その暇をまったく与えない連続した攻撃。

・・・のっとられた・・・・。

俺は、実感していた。今、俺の身体は、黒いものによって動かされているのだ。

しかし、紫のメリーは、そのことを知らない。あの圧倒的な力の根源とも言うべき黒いものの存在を、彼女も知っているのであれば、それを人間が、人間ごときが、克服できるはずはないと、そう思っていたのだろう。

その人間におびえさせられ、劣勢に甘んじている今の状況。

彼女のプライドがそれを許さない、しかし、今の彼女ではどうしようもない・・・。圧倒的な力の差は、彼女の美しい顔に恐怖と

あせりとなって現れていた。

「あ、あなた・・・本当に・・・人間です・・・の?」

紫のメリーは、クローゼットのある部屋まで逃げていた。俺の、黒いものの操る俺の繰り出す鎌の攻撃を防ぎながら、後ずさり

をしながら。しかし、もう後はなかった。クローゼットが壁となり、紫のメリーの逃げ場をなくしていた。

・・・・どうするつもりだ?

俺は不安になった。まさか、俺の中の黒いものは、目の前でおびえる紫のメリーを、どうするつもりなんだ?

俺の横に鏡がある。視線の端に執拗に紫のメリーに攻撃を仕掛ける俺の姿が映る。

それは・・・俺ではなかった。いや、正確には俺なのだが、目は血走り、口元はまるで避けたように大きく開き、そこからよだれ

を垂れ流した、獣の顔。

「紫の・・・。わしの邪魔を・・・するとは・・・偉くなったものだな・・・」

よだれを垂れ流した口元から、しゃがれた俺のものとは違う声が漏れ始めた。

・・・黒いもの・・・・。

「わしに・・・干渉する・・・のならば・・・お前・・・消えるか?」

俺の・・・黒いものの攻撃が止まる。紫のメリーは、がたがたと震えだしていた。

「黒・・・の・・・鎌の・・・意思・・・?」

紫のメリーは、完全におびえていた。単純に物理的な攻撃への恐怖ではない、根本的な恐怖。目の焦点が合わず、ただただ

震えていた。
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紫8

立ち上がった紫のメリーは、俺を見下すように、哀れむように、視線を送っていた。

「私たちメリーの召喚は一種の契約。あなたが死なない限り、黒のメリーは次の契約を結べないのですわ。」

「・・・契約・・・」

「そう・・・。あなたがどうやって、黒のメリーを召喚したのかは知らない。知りたくもありませんわ。しかし、このまま黒のメリーが

この地にとどまり、都市伝説の持つ神秘性を失えば、彼女は都市伝説ではなくなる。やがて私たちも・・・」

「私たち・・・?」

「あら、おしゃべりが過ぎてしまったようですわ。さて・・・」

紫のメリーは、鎌を構えなおした。再び、俺を攻撃してこようとしているのだろう。

「まて、メリーは・・・メリーと呼ばれる存在は・・・・複数いるのか?」

紫のメリーは、口をつぐんだまま、俺をにらみつけていた。

「都市伝説ではなくなるというのは、どういうことなんだ?」

俺の言葉を切り裂くように鎌が滑り始めた。しかし、俺のほうもそろそろ限界に近かった。身体の中が黒いもので満たされて

しまったような感覚が先ほどから俺を襲っていた。

身体が自由に動かない。目だけが、滑りくる紫のメリーの鎌を捕らえていた。それは不思議な感覚だった。ものすごい速さで

俺に向かってきている事は感覚としてつかめるのだが、俺の目に映る鎌は非常にゆっくりとした動きで徐々に近づいていた。

俺は、動きの鈍い体をゆっくりとそらした。鎌が滑り込んでくると予測されるラインから身体を逃がした。

鎌はゆっくりと、俺の前を通過していく。メリー・・・紫のメリーの顔が険しくなる。

タン!

紫のメリーが鎌の行き過ぎてしまうのを待たず、鎌の軌跡を足の蹴り上げて変えた。蹴り上げられた鎌は、ふわりと舞うスカー

トとそこから覗く少女の美しいラインを保った太ももに俺が気をとられているうちに、俺の真上に来ていた。

・・・体が勝手に動いていた・・・。

俺の意思ではないものによって、俺の腕は、鎌の軌跡を止めた。とめるだけではない。鎌を跳ね返して、紫のメリーに向けて鎌

を繰り出していた。意識ははっきりしていた。むしろ先ほどまでの黒いものからの呼びかけが、まったく消えていた。俺の身体の

中・・・いや、意識への関与をやめたのか?身体の自由が利かないだけで、俺の意識は鎌を手にする前と同じだった。

激しく、紫のメリーへの攻撃を続ける俺。しかし、やめようにも俺の身体は、まったく俺の言うことを聞いてくれなかった。

「・・・人間・・・あなた、何者ですの?鎌を・・・ここまで・・・使いこなせるとは・・・」
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紫7

「黒の鎌を・・・人間ごときが・・・」

紫のメリーの顔に驚きと怯えが見える。

まだだ。まだ、大丈夫だ。今まで何度かこの不快感と対峙してきている。少し慣れてきたということなのだろうか、流れ込んで

くる黒いものの量が少ないような気がする。

俺はゆっくりと立ち上がった。紫のメリーをおびえさせればいい。そして、ここから去ってくれればそれでいい。それまでの間、何

とか、俺の神経が、流れ込んでくる黒いものに抵抗できれば、それでいい。

ど・・・っ・・・く・・・ん・・・。

ある一定の時間ごとに心臓が大きく脈打つ。そのたびごとに、俺は気を失いそうな感覚に陥る。

「き、君もメリーと・・・言ったな・・・。すまないが、俺はしぬわけに・・・は・・・行かないんだ・・・」

何とか紫のメリーに話しかける。まともな言葉を発するのもやっとというのが本当のところだ。

黒いものは、流れ込みながら、俺の意識に向かって、声をかけようとしている。

その誘惑や欲望をシャットアウトしながら、自分の意思で身体をコントロールする。それには、常に、メリーの俺の大切なメリー

の笑顔を頭に思い浮かべていなければならなかった。

「い、意識が・・・あるんですの?」

俺の顔を覗き込むように見入る紫のメリー。

「意識が・・・人としての意識があるのであれば、おそるるに足らないですわ!」

紫のメリーの顔から怯えが消えた。攻撃態勢をとるや否や、朦朧としている俺に向けて水平に鎌を滑らせてくる。

一瞬意識が途切れた。俺の手は片手で鎌をもってやはり柄の部分で紫のメリーの鎌をとめていた。

ものすごい音と鎌同士のぶつかる反動で、意識が目覚めたとき、紫のメリーは、鎌を手放して床に転がっていた。

「帰ってくれ。君の目的が何かは知らない。確かに俺が死ねば、悲しみの中でメリーはまたもとのように都市伝説の中で生き

るモノとなるかも知れない、けど・・・」

「まったくお馬鹿で自意識過剰でうぬぼれもここまで来たら、素敵だとも思えてしまいますわ」

紫のメリーは、立ち上がりながら、俺の言葉をさえぎった。

「誰があなたが死んだ悲しみなんかで、メリーを解放するといったのかしら?」

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紫6

「俺も死ぬわけには、いかないんだ。メリーの・・・お前が黒のメリーと呼ぶあいつのために・・・」

そうだ、明日の朝、この部屋を訪れたメリー・・・俺の大切なメリーに、あのときのような、妄想の中で

ひざを抱え、裏切られたと思って、再び鎌を手にしなければ立ち上がれなかったような圧倒的な絶望

を味あわせるわけにはいかない。そのためにも、俺は死ぬわけにはいかないんだ。俺は紫のメリーへめけた視線に力を込める。

「いい表情をなさいますね。その顔で黒のメリーをとりこにしたのかしら」

という言葉を残し、壁の鎌に向かった。

俺は、決心を固めた。死ぬわけにはいかないんだ。どうあっても、死ぬわけにはいかない。

俺は脚でベッドの下をあさった。鎌を包んだ毛布の端を足でつかみ、引きずり始めた。紫のメリーに気づかれないように。

「わからなくも・・・ないですわね」

紫のメリーは、こちらを向かずに、誰に言うでもなく言葉を続けた。

「そこまで思われる・・・大切にされるのなら・・・私しも・・・」

ゆっくりと、ベッドから、音を立てないように鎌を引きづり出す

「しかし、それではだめなのですわ・・・私したちの存在理由が・・・」

ベッドの下から完全に鎌を包んだ毛布が姿を現した。紫のメリーを見る。彼女の鎌は壁から抜かれていた。

「だから、あなた・・・死んでくださるかしら!」

 

紫のメリーは振り向きざまにまっすぐ俺の脳天めがけて鎌を振り下ろそうとしていた。

俺は、毛布の端を脚でつかみ、蹴り上げるように引っ張る。

舞い上がる毛布。紫のメリーの鎌は、そのまいあがった毛布を何の抵抗もなく、切り進んでいた。まっすぐに俺の脳天めがけて・・・。

しかし、紫のメリーの鎌は、俺の脳天をまではたどり着かなかった。

毛布とともに回転しながら舞い上がった鎌。俺はその柄をつかんで、紫のメリーの鎌の行く手を阻んだ

「な、なんですの?」

毛布で俺の手にした鎌の全貌が見えず、何が自分の鎌の行く手をふさいでいるのかわからない紫のメリー。

俺は紫のメリーの鎌をはじき返して毛布を取り除いた。

「く、黒の・・・・鎌・・・」

紫のメリーが固まっていた。俺は鎌を構えなおした。次の攻撃に備えるために・・・。そのときだった・・・。

どっく・・・・・ん・・・。俺の心臓が大きく脈打った。と同時に、鎌と触れている手から、何かが流れ込んでくる不快感が俺を・・・襲っていた・・・。

ど・・・っ・・・く・・・ん・・・・・。

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紫5

武器・・・。あいつに対抗できる武器・・・。

・・・鎌・・・・。

それは、今、俺の乗っているベッドの下にある。

いや、だめだ。ベッドの下に隠しておいた鎌・・・。アレを手にしたら、俺の中に再び黒いものが流れ込む。

そして、あの圧倒的な力にもう一度抵抗できるかどうか・・・。俺がもしも、あの黒いものに抵抗できると

すれば、それにはメリーが必要だ。

俺の大切なメリー。奴が黒のメリーと呼ぶ、あのいたいけな少女の笑顔。

それを守るためにも俺はこの鎌に触れないようにベッドの下に隠したんだ。

武器がないとすると、今のうちに外へと逃げるか?

いや、相手の居場所を把握し、瞬間といっていい移動速度で相手に近づいていく。それが都市伝説「メリーさんの電話」

もし「メリーさん」が複数存在するとすれば・・・。この紫のメリーが、その都市伝説を担う「メリー」の一人

だとすれば、どこに逃げても同じことだ。

「明日の朝には、また来るからね!」

そういって、麻子の家へと連れ去られていったメリー・・・。

明日の朝、あいつが来たら、俺は魂を刈られた抜け殻のような状態・・・死んでいるのかも知れない。

紫のメリーの鎌は相当深く刺さっているらしく、なかなか壁から抜けない。俺は、紫のメリーに声をかけた。

「メリーを・・・黒のメリーを開放するとはどういうことだ?」

壁の鎌に集中していた紫のメリーは、少しビクッとして、振り返った。驚いた顔を見せぬように、少し間を

おいて顔を整えてから・・・。

「言葉どおりですわ・・・。それ以上でもそれ以下でもございませんの・・・」

俺にそう答えた紫のメリーは、少しうろたえているようにも見えた。

「どうしても俺を刈らなければ・・・だめか?」

俺はベッドに座り、さらにむらさきのメリーに声をかけた。相手の余裕がなくなっているのがわかって、

俺にも余裕が生まれたからだろうか?それとも、このクールで冷たく見えた紫のメリーの素の部分が

見えたことに俺自身が安心したからだろうか?

その言葉を聞いた紫のメリーは、鎌を手放して、俺にまっすぐ向き直った

「当然ですわ。それが黒のメリーのため。しいては私のためでもありますのよ」

紫のメリーの表情は、うろたえたところを消し去り、冷たい青い瞳は俺をまっすぐ見据えていた。

 

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